第4話 転校生しっぽ
- 2025年8月30日
- 読了時間: 3分
「じゃーんっ! 完成〜♡ 見て、この制服メイク……もう、しっぽ、完全に転校生じゃん?」
あきのハイテンションな声に、リビングの空気がすこし浮いた。
鏡の前には、リップとチークでほんのり血色がついたしっぽの頬。
制服風のカーディガンにネクタイ、前髪もぱつっと整えられてて――

「なぁ、お前……これほんとに、あきがやったんか?」
なつが目を細めて、くわえタバコのまま見下ろす。
「へへーん。才能でしょ? メイクは戦場。ぼくはもう、指先が刃物なの」
「しっぽ、すっごい……似合うやん! なあなあ、学校エピソードとかあるん?」
はるが横から顔を出すと、しっぽはふにゃ、と笑った。
「……がっこう、いったこと、ない」
「……え?」
その声に、空気がふっと静まった。
「ずっと、いえで、ねてた。そと、こわいから……でも、きょうは……たのしい」
その“たのしい”の言い方が、ちょっとだけくすぐったそうで、
それを聞いたあきが、ぱんっと手を叩いた。
「じゃあさ! やろうよ、学校ごっこ!!」
「は?」
「しっぽの初登校記念日! ぼくらがクラスメイトってことで、もうチャイム鳴ったってことにしない?」
「うお〜〜〜〜それ、おもろい!! おれ委員長やるわ!」
「じゃあ、ボクは生徒指導〜。遅刻には爆撃の罰♡」
「しっぽ、お前は新任教師な」
「むり……」
「じゃあ保健室のベッド!」
「いく……!」
笑いがはじけて、洋館が教室に変わった。
リビングの机にはノートと鉛筆、クッションが教科書の代わり。
ふゆが黒板代わりに窓に指で文字を書きながら、意味不明な授業をはじめた。
「宇宙物理学Ⅰ、始めまーす! まず、月はチーズか?って話ね!」
「まって、質問! そのチーズ、溶けるんですか?」
「とろけると愛になる」
「ちょっとなにいってんのかわかんねぇ」
はるがつっこんで、あきがノートにハートを書いてる間に、
しっぽはこっそりカーディガンの袖をぎゅっとにぎってた。
「……ぼく、いま、せいと?」
「うん。どこからどう見ても転校生しっぽです」
あきがとなりにすわって、まるでスカウトのように笑う。
「このあと、お昼の時間あるけど、パン派? 弁当派?」
「……おべんとう、たべたこと、ない」
「まじで!? それは問題あり。ふゆ先生、給食!」
「おっけ〜。カロリーメイト三色盛り!」
「もろ健康食品やないか〜い!」
しっぽがくすくす笑うと、あきがそっとリップを見せた。
「これね、さっきのよりちょっと大人っぽい色。……塗ってみる?」
「ぬったら、ほんとに、がくせいに、なれる?」
「……うん。なるよ。ぼくが保証する」
しっぽは、ゆっくりうなずいて、目をとじた。
そっと唇にあたる、つめたいリップ。
だけど、ぬられた場所よりも、心のどこかが、くすぐったくなる。
「……ふふ。にあう?」
「ずるい。かわいすぎて、ぼくの居場所なくなりそう」
「ここ、あきの、ばしょだよ?」
その一言に、あきが一瞬だけ目を見開いて、笑って隠した。
「しっぽって、そういうとこ、ほんと反則……」
後ろで、ふゆがチャイムの音をまねて叫ぶ。
「きーんこーんかーんこーん☆ 次は体育でーす!」
「おれ、マット運動は見学で!」
「ボクは地球儀持ってくる!」
「しっぽは?」
「……ぬけがけ、する」
「それ体育ちゃう!!!」
笑い声が交差して、ふざけとごっこの中に、
しっぽの「はじめて」が、ちゃんと混ざっていく。
制服の袖が少し長くても、
唇がすこし照れてても、
それもぜんぶ、「せいとっぽさ」なんだと、
きっとこの家の誰かが、信じてくれるから。




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